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福岡高等裁判所 昭和49年(行コ)7号 判決 1975年8月19日

熊本市花畑町九番九号

控訴人

西部観光有限会社

右代表者代表取締役

倉重正

右訴訟代理人弁護士

東敏雄

熊本市二の丸一番地

被控訴人

熊本西税務署長

渡部克己

右指定代理人

小沢義彦

中島清治

村上悦雄

宮田正敏

右当時者間の課税処分取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対して昭和四四年六月二六日付でなした (一)控訴人の昭和四二年七月一日から昭和四三年六月三〇日までの事業年度の法人税更正および重加算税賦課の各決定(但し、、訴外熊本国税局長が昭和四五年二月三日付裁決により取消した部分を除く) (二)控訴人の昭和四〇年七月一日から昭和四一年六月三〇日までの事業年度の法人税更正および重加算税賦課の各決定はいずれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当時者双方の主張と立証は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一、控訴代理人の主張

被控訴人は、控訴人の昭和四二年度における法人税につき、借入金七七万五、五四四円を否認し、所得と認定したのであるが、その否認の根拠が問題である。税法上は実額課税が原則であり、推計課税は白色申告においても一定の条件のもとにのみ許容されるのであるが、青色申告が承認されている場合は、その帳簿又は伝票などの記載が整然とされていてその間の不突合がなく、収入・原価・経費・支出などが個別的に把握できる状態にあるから推計課税をいれる余地はなく、法律もこれを禁じているのである。この整然たる帳簿体系の中において、ある借入金の貸主の氏名が明らかにされない場合に、それを直ちに除外利益とみることは、帳簿体系に基づかない恣意的な推計課税を導入する以外に方法はない。それゆえ、被控訴人が本件借入金を除外利益と認定するためには、これを実額的に把握した根拠を示すべきである。

二、当審における証拠

被控訴代理人は乙第一七、一八号証を提出し、控訴代理人は証人田上猛、内田正利の訊問を求め、乙号各証の成立を認めた。

理由

一、当裁判所も、控訴人の本訴各請求を棄却した原判決の判断を相当と認める。そして、その理由は、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。当審証人田上猛、内田正利の各証言は右認定判断にそうものであり、他にこれを動かすに足りる証拠はない。

二、控訴人の当審における付加的主張については、原判決理由二、3項で説示するとおりである。控訴人はかかる場合も推計課税であるとするのであるが、いわゆる税法上の推計課税とは、税務署長が法人税等につき、更正、、決定する場合に、直接資料によらずに、納税義務者の財産又は債務の状況、収入又は支出の状況、生産費・販売量その他の取扱量、従業員数等所得を間接的に推定させる各種の資料を用いて課税標準及び税額を認定する方法をいうのであり(法人税法一三〇条)、本件のように、被控訴人たる税務署長が帳簿書類の調査を通じて、個別的に発見された借入金の存在に疑いを抱き、具体的に追求調査したのに対し、控訴人の供述は変転し、最終的には否認さるるも止むなしとの態度で借入先を明らかにしなかつたので、被控訴人の調査も終に借入先を確認できず、借入金の否認をした結果、企業会計の原則上当該事業年度における所得額が変動し、除外利益が算出されるに至つたのは、いわゆる推計課税ではなく、法人税法上是認された「帳簿書類を調査し、その調査により課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合」に該当するものと解するのを相当とする。

三、そうであるとすれば、原判決は相当であつて本件控訴はその理由がないのでこれを棄却することとし、民訴法三八四条、八九条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 亀川清 裁判官 美山和義 裁判官 安部剛)

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